オフィスの甘い罠
胸の内でそう叫びながら、
振り切るように吐き出した言葉。



柊弥はそれを感情の
読めない無表情で聞いてた。



二人の間に降りてくる沈黙。



柊弥が何も言わないなら、
いっそ今すぐ席を立って
この場を走り去って
しまおうかと思った。



だけど――あたしが軽く
腰を浮かした、まさにその時。



いつもどおり落ち着いてる
けど、揺るぎない何か……
そう。覚悟のようなものを
秘めた声で。



柊弥はハッキリと、
こう言ったんだ。



「嫌だ。

オレはお前を、離さない」



「柊…………!」



「逃げんなよ、梓」



「―――――!?」



ギクリ、と体が強張った。



縫いとめられたように再び
腰をおろして、あたしは
柊弥を凝視する。



柊弥も、曇りのない瞳で
まっすぐにあたしを見返してた。
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