オフィスの甘い罠
「……………!」



……やっぱり、さっきの
るりちゃんとの会話は
ほとんど聞かれてたんだ。



苦い思いが広がる。



知られたくなかった……
柊弥には。


あたしがこんなふうに、
“今のあたし”になったわけを。


こんな生き方しかできなく
なってしまった、そのわけを。




「そんなに、人を信じる
のは怖いか?

他人に心を開いて――
自分をさらけ出して生きる
のは、そんなに怖いのか?」



まっすぐにあたしを
見つめて問いかける、柊弥の瞳。



その瞳は、きっと幼い頃
孤児院で母親を待ち続けた
瞳と――母親を信じてあの
マリア像に祈った瞳と、
同じなんだろう。



(あたしには、もうそんな
目はできないのよ。

あたしは……あたしは
もう、期待することを
やめてしまった)



――誰も迎えに来ないと
悟った、あの日から。
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