オフィスの甘い罠
わがままなんて言わない。


意見なんて言わない。


どんなイヤミを言われ
たって、黙ってそれを
受け入れる。



ただ、かりそめの寝床を
失わないために――…

あたしは全部の希望や
感情を、忘れたんだ。



そうするしか、あたしが
あの家で生活していく
方法はなかったから。




「――わかった? これが
あたしなの。

高校出るのと同時に独立
して一人暮らし始めた
けど、だからって何か
変わるわけじゃない。

生き方なんて変えられないのよ」



今さらこの世界に何を期待
しろというのか。

何を信じろというのか。



―――何もない。



あたしが信じられるのは
あたしだけ。



それ以外には、何もないんだ。
< 271 / 288 >

この作品をシェア

pagetop