オフィスの甘い罠
そして柊弥は、吐息が
かかりそうなほどの近い
距離であたしの瞳をとらえて、



「誰かを恋しいとか、
愛しいって思う気持ち。

それに、寂しいとか悲しい
とか嬉しいとか……
とにかくそういう、人間
らしい感情全部。

それを……オレがお前に
思い出させてやる。

オレが、お前と一緒に
感じていきたいんだ」




『オレが、お前と一緒に
感じていきたい』




それはまるで、冷たい氷を
ジワジワ溶かしていくかの
ようなあたたかな言葉だ。



低くてぶっきらぼうなのに
なぜか涙が出そうなくらい
優しい声で、柊弥は続けた。



「だから――オレを信じろ、梓。

他の何も信じなくていい。

ただオレのことだけ、
お前は信じてれば――…」




“オレがお前を、救ってやる”。



そう言って、柊弥は
あたしを抱き寄せた。
< 274 / 288 >

この作品をシェア

pagetop