オフィスの甘い罠
そのとたん――あたしは
自分の感情がせきを失った
奔流のように、とめどなく
溢れ出すのを感じてた。




―――もうダメだよ、あたし。



もう、限界だ。



こんなことを言われたら――

もう、これ以上自分の
気持ちをごまかすこと
なんてできない。



「なんで……なんでそんな
こと言うの?

何も信じないって。
何も求めないって。

そう決めて、あたしは
生きてきたのに……!」



厚い胸に顔をうずめたまま
涙に濡れる声で訴えると、
背中を抱く柊弥の腕に
グッと力がこもる。



「……そんなのは嘘だ。

初めてオレと会った時、
お前、今にも死にそうな
くらい寂しそうな顔してた
じゃねーか。


全部諦めた? 感情を捨てた?

――嘘だよ。

さっきだって怒って、泣いて。

お前はまだ何も諦めちゃ
いないし、捨てちゃいない。

ただこれ以上傷つくのが
怖くて、心にフタをした
だけだろ」
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