オフィスの甘い罠
入口に近い部署から順に
歩いて行き、部署の紹介を
受けたり、簡単な挨拶を
したりしてる。



席の並びからして、
あたしの部はたぶん最後か
最後から二番目だ。



あたしは適当に仕事する
フリをしながら、徐々に
近くなる柊弥との距離を
何度も確かめた。



近づいて来るにつれ表情は
細かなところまでハッキリ
して、話し声も明確に
なってくる。



柊弥の笑い声が耳に届く
たび、胸が締めつけられる
ように苦しくなった。



緊張が高まってるから、
っていうのもある。



でもそれとは別に――…

あの夜の、あたしの名前を
呼ぶ柊弥の声が、耳の奥に
甦るようで――…。



「……………!!」



体の奥に火がともった
ように熱くなる感覚を、
あたしは別のことを考えて
懸命に追い払う。
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