コスモス
…駅に着くと、やっぱり明日可の方が早く来ていた。
駅前の時計台の下、キョロキョロしながら辺りを見渡している。きっと僕を探しているんだろう。
デニムスカートから伸びる華奢な足は、明日可の人捜しを手伝う様に、時折くいっと背伸びをする。
パフスリーブからのぞく腕は、スカートの前で赤いカバンをぶらさげており、明日可が背伸びをする度に軽く揺れていた。
僕を探す明日可がなんだかとても嬉しくて、悪いと思いつつも、声をかけるのをためらっていた。
やがて、明日可の目は、僕を見つける。
勝ち誇った様な僕の顔と、ぷぅと膨れる明日可の顔。
僕だけが引き出せるこのふくれっ面が、僕は一番好きだった。
「ようやく見つけてくれましたか」
「…来てたんなら、声かけてよね」
怒った様な明日可の声。でも、それが本気じゃないことくらい百も承知だ。
思わず笑いがこぼれる。
その笑いが、明日可の頬をますます膨らます。
「あはは、わりぃって。…これで機嫌なおして下さいよ」
笑いながら、僕は二枚の紙切れを取り出す。
映画のチケットだ。
膨らんだ明日可の頬が、ゆっくりと緩む。
…前言撤回。
やっぱり僕は、明日可の笑顔が一番好きだ。
「じゃ、いきますか!」
自然と明日可の手を取る。
明日可が僕の手を握り返す。
街にとけ込むカップルと何も変わらない、僕等は普通のカップルだった。