コスモス

「…覚えてる?キャンプの日、ミキが鬼ごっこじゃなくて、かくれんぼにしようって言ったこと…」
「…ああ…」

絞り出すような、声。
余りにも出ていない自分の声に、内心驚きを隠せない。

「あれ、違うの。明日可、ほんとは運動得意なの。中1の頃は、陸上部の期待のルーキーだったくらい、足だって速いの」

カフェオレを見つめたままミキは話す。
店に入って、まだミキは一口も口をつけていない。

「でも…中2の時に、病気が見つかって…。走れないの。苦手とかじゃなくて…、できないんだよ…」

ミキの言葉を、回らない頭で1つ1つ理解していく。
あの日覚えた違和感の理由が、ようやくわかった気がした。


…明日可は僕に、嘘をついていたんだ。


固まった口がようやく動く。

「なんで…」

無意識に拳に力が入った。

「なんでそんな大事なこと黙ってたんだよっ!?なんでもっと早く…」
「明日可はっ!」

ミキが顔を上げた。
その目は、涙でいっぱいだった。


「明日可は…怖いんだよ」


< 83 / 449 >

この作品をシェア

pagetop