コスモス
……………
僕等は人の少ない校舎裏へと向かった。
非常階段を2、3段登り、そこに腰掛ける。
少し距離をおいて、明日可も座った。
再び流れる沈黙。
遠くで、ホームルームの開始を告げるチャイムの鳴るのが聞こえた。
「…ミキ、しゃべっちゃったんだってね」
チャイムが鳴り終わるか終わらないかのところで、明日可が沈黙を破った。
「しょうがないなぁ…ミキ、おしゃべりだから」
ははっと笑い、前に伸びをする明日可。
僕は、笑えなかった。
「…キャンプでさ、あたし、車にポーチ忘れたじゃん?」
不意に話題を変える明日可。
キャンプでの幸せな気持ちが、今では遠く手の届かない場所に行ってしまった様に感じる。
「あれさ、薬の入ったポーチだったんだよね」
サラッとした口調で、明日可は言った。
全身が強ばる。
「常にね、持ち歩いてるの。毎日飲まなきゃいけない薬でしょ、あと、発作がおこった時の薬でしょ、それから…」
「もういいから」
僕は、指を折りながら数える明日可を制した。
聞きたくなかった。
明日可の現実を、認めたくなかった。