ビタミンC
「何で?」
「何でって?」
少しだけ頭を傾ける彼女は、歯を出して笑っている。
「いや…だって」
どうして知らない人の名前をいきなり尋ねるのかと僕は言った。
彼女は目も笑わせて
「だって気になるんやもん。クーマ好きなんて、早々おらんやろうから…」
と言い切った。
やっぱり僕には理解できなかったけれど、「高梨」とだけ答えた。
「高梨くんか、そっか。ふーん」
と謎の納得をし始める彼女は、近くの本棚の本を触りだした。読むでもなく、背表紙を指でなぞるだけ。
「浅田次郎?好きなの?」
いつの間にか僕の読んでいた本の背表紙を覗き込んでいた。すっと本を降ろして、表紙を見せる。
「そうだけど」