ガラクタのセレナーデ
 不意に、真が立ち止まり、真と手を繋いでいたいろはも、必然的に足を止める。

 そこは雑貨屋の前で、いろはが振り返ると、真はまじまじと、店先に並んだ兎を象ったガラスの置物を眺めていた。



「綺麗ね……」
「うん」

 そうしてしばらくの間、二人並んでそのガラスの兎を眺めていた。



 ガラスの兎――

 いろはは、ある女性のことを思い出していた。
 五年前、若葉園を卒業した自閉症の女性、芹沢 由羅(セリザワ ユラ)。

 当時、由羅は21歳だった。

 両親を事故で亡くしており、肉親といえば、弟の那智だけだった。

 弟の那智とは面識のないいろはだったが、普段無口な由羅が、那智のこととなると、嬉しそうにキラキラして話したことを、今でも鮮明に覚えている。

 母親が生前にくれたという、兎の形をした小さなガラスの置物を、いつもポケットに入れて持ち歩き、とても大切にしていた。


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