ガラクタのセレナーデ
 頭の中がグラグラと揺さぶられるような錯覚に陥った。
 いろはは耐え切れず、両手で自分の頭を支えるように抱え、固く目をつぶる。

「救世主ごっこはそろそろ終りにしませんか? センセー」
 ため息交じりにそう言って男は立ち上がり、ベッド上のいろはを振り返った。

 ベッドの上に左腕を立てて身を屈め、小首を傾げていろはの顔を覗き込むと、
「また溜まったら、お願いしますね、センセー」
 そう言って、男は無邪気に微笑んで見せた。

 再び身を起こすと、男の顔からは既に笑顔は消えており、ほんの束の間冷ややかにいろはを見下ろすと、男は身を翻して部屋を出て行こうとした。

「どこ行くの?」
 慌てていろはが呼び止めると、
「知り合いの家。
 恋人でもない男女が一つ屋根の下、一緒にいるのはマズイっしょ?」
 悪戯っぽく微笑むと、男は颯爽と部屋を後にした。

 部屋の扉が虚しい音を立てて閉まった。

「抱いておいて、今更何言ってんの?」
 一人残されたいろはの口から、思わずそんな独り言がこぼれる。

 あんな見え透いた嘘に、私が騙されるとでも、本気で思っているのだろうか。
 意地を張る男の態度が、益々いろはを切なくさせる。


 何もわかっていないのは

 あなたの方よ


 今度は心の中だけで呟いて、いろはがそっと目を伏せると、再び堰を切ったように涙が溢れ出した。




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