ガラクタのセレナーデ


 男の忠告も聞かず、いろはは朝早くに自宅へ戻ると、着替えを済ませていつも通り出勤した。


 『真』の姿をしたあの男が、いつも通り9時少し前に施設へやって来た。
「真くん、おはよう」
 何事もなかったかのように、平然と出迎えたいろはに、真は思わず目を見開く。

 が、一瞬にしてその表情は消え去り、いつもの感情のない顔に戻ると、
「おはようございます」
 いろはから目を逸らし、ボソボソと小声で挨拶を返した。


 作業時間、真が突然席を立った。
「菊島センセー、トイレ」
 いろはを真っ直ぐ見詰めて真が言う。

「はい、いってらっしゃい」
 そう言っていろはは、屈託なく微笑んだ。
「一緒に来て」
 真は縋るような瞳を、いろはに向ける。

「どうして? 真くん、いつも一人で行ってるじゃない」
 あくまで、いろはも白々しい演技を続けた。
「今日はイヤだ。センセー、ついて来て」
 真も引き下がらない。

 隣の部署担当の年配の女性が、
「真くんだって、たまには菊島先生に甘えたいよねぇ。
 菊島さん、行ってあげたら?
 ここは、私が見ておくから」
 見るに見兼ねたのか、穏やかに微笑んでそう言った。



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