ガラクタのセレナーデ
「わかった」
 いろははゆっくり頷くと、そっと男の手を自分の頬から離し、男を残してトイレを出た。

 男は、何か重要な目的があってここにいる。
 一ヶ月もの間、本物の『夏目真』と生活を共にし、『夏目真』を完璧に演じているのだ。
 そこまでしてこの施設に潜入したのには、余程の理由があるに違いない。
 そう、いろはは自分自身に言い聞かせ、誰にも気付かれぬよう、こっそり施設を抜け出した。



「どうも、こんにちは。」
 作業場の入り口付近から声を掛けられ、瑞希が振り返ると、背の高い若い男が微笑みを浮かべて立っていた。

 担当している入所者たちに軽く声を掛けると、瑞希は席を立って男の方へと移動した。

「警視庁の有坂です。
 社長の箕浦さんにお会いしたいんですけど」

 その言葉に、瑞希は驚きを隠せず目を丸くする。
 部屋の入り口から身を乗り出し、廊下の先を覗き見ると、玄関にはさらに数人の刑事らしき男たちが、何やらヒソヒソと話し込んでいた。


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