クリスマス・ハネムーン【ML】
 ぴぴっと。

 赤毛の白人男が吹いた鼻血が、二、三滴、僕の頬に、ついた。

 もちろん。

 わざと派手に流血させたんだ。

 僕には、一睨みで、相手を威嚇出来る程のいかつい顔も。

 立ち上がるだけで、相手を萎縮させることの出来る、恵まれた体格もない。

 でも。

 何をしたら、圧倒的に多い敵を怯ませることが出来るか、は良く知っていた。

 一撃、必殺の拳をまともに喰らい。

 ぼとぼとと、血を流してひざまずいた白人男を横目で見ながら。

 もう、ずいぶん前に封印したはずの。

 僕の内側(なか)に居る『雪の王子』が立ち上がる。


「……佐藤」

「ははははいっ!」


 もしかしたら。

 僕らを取り囲んだヤツらよりも青ざめているらしい。

 僕の視線を受けて、自然と、二、三歩下がる。

「……霧谷さんが、どこに居るかもう一度聞け」

「り、了解しましたっ!」

 僕の要望にがくがくと頷いて。

 佐藤が、裏返った声を張り上げる。

 そんな僕らに、反発するみたいに。

 傷ついた白人の横にいた、肌の褐色な男が飛びかかって来た。

 そいつを床にたたきつけるように殴りつけると、僕はもっと低く声を出した。

「霧谷さんの居場所は、どこだ!」

「わわわっ!」

「WA~WAWAWA~!」

 僕の殺気に、一番最初に逃げ出したのは、佐藤だった。

 けれども。

 僕は、そのことは、深く追求せずに。

 逃げ遅れた敵グループの一人の首根っこを捕まえて、僕はぐい、と引っ張った。

「早く言え!
 さもないと……!」



 ……一人くらい、殺してみせようか?





 
< 100 / 174 >

この作品をシェア

pagetop