クリスマス・ハネムーン【ML】
「あんた、一体、何を話したんだ!」

 この集団の中では、明らかに荒事担当に見える、男達が、腕まくりをして、僕らに近づいて来る。

 しかも、皆。

 怒っていることを隠そうともしなかった。

「佐藤!」

「わ……わたしたちが、警察の関係者じゃないって言った時は、なんでもなかったのに。
 環境問題とは、無関係だと言ったら急に……!」

 ……そこか。

 僕は、佐藤から聞いて、頭を抱えたくなった。

 佐藤がどんな風に言ったのかは知らないけど。

 よっぽど、気に障る言い方をしたにちがいない。

 いや。

 もし。

 佐藤のことを、ハニーと一緒の日本企業に勤めている者って、ちゃんと理解しているのだとすれば。

 当然の反応かもしれなかった。

 顔を、自分の髪と同じくらい赤くした、体格の良い白人男が、何か。

 僕達に突っかかるように怒鳴ると。

 ぐぃんっと、太い腕を振り回した。

 ヤツの目には、僕らが取るに足らないモノに見えたんだろう。

 ビビってすくみ上がっている佐藤と。

 相当弱そうに見えるらしい、僕を莫迦にして、脅す為に。

 不用意に振り上げてくる拳が気に食わなかった。

 何も知らない佐藤が側に居ることだって、覚えていたし。

 やろうとしたら、この弱く見える、そのままに。

 二、三発わざと殴られて、それをネタに揺する、なんて芸だって出来たけれど。

 僕には、全く余裕がなかった。

 時を追うごとに、ハニーの調子が悪くなってゆく様子が目に見えるようだったから………!

 無事なハニーに、一刻も早く会いたい。

 その心一つだけで、僕は牙をむく。




 めきっ!



 肉を打ち。

 もしかしたら、軟骨ぐらいは、砕けたかもしれない、不吉な音は。

 僕の拳の方から鳴った。

 赤毛の白人男の拳をかわして、反対に、繰り出した僕の拳が。

 ヤツの顔の、ど真ん中に、まともに入った音だった。

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