クリスマス・ハネムーン【ML】
 僕は、泣き叫びながら、ハニーの手がかりを。

 いや。

 僕の焦燥感を和らげてくれる獲物を探す。

 この目に映るもの。

 手に触れたモノを見境無く殴りつけ、傷つけてゆく。

 その場にいた逃げ惑う人々の悲鳴は、聞こえても、別に気にならなかった。

 少しずつ強くなってゆく血の臭いも、感じなかった。

 ただ、僕は、喉が裂けるかと思うほど。

 愛しいひとの名前を叫び続けていた。

 僕は、まるで。

 狂った獣のようだ……なんて。

 頭の中の妙に覚めた部分が思っていたけれど。

 ハニーの姿を求めて猛る自分を、自分自身で止めることなんてできなかった。

 けれども。



「ハニー……!!!」

「そこまでだ。
 ……蛍(ケイ)」


 僕の何度目か判らない。

 獣の咆哮のような雄叫びを、日本語が止めた。

 工場の螺旋階段、二階の踊り場から聞こえたその声は。

 僕の事を『ホタル』でなく。

『ケイ』と呼ぶのは、ハニーじゃない。

 僕の過去を知らない佐藤やジョナサンじゃない。

 訝しく、うっそりと上げた僕の視線の先に見た人物、それは。

 僕が昔、雪の王子と呼ばれていた頃。

 看護師なんかじゃなく。

 セレブを気取った金持ち女達を相手にするために。

 暴力団で、飼われていた頃に。

 僕の兄貴分を張り。

『店』の取締役をしていた岩井だったんだ。






 

< 102 / 174 >

この作品をシェア

pagetop