クリスマス・ハネムーン【ML】
 だけども、岩井は、僕の言葉に、歯を剥き出して怒鳴った。

「知らねえ?
 ざけんなよ!?
 おかげで、オレは、店をたたまざるを得なくなり。
 こんな、南の果てで島流しだ!
 新事業をブチ立てて、成功するまで日本には帰ってくんなとさ!」

 激昂した岩井は、僕に向かって、ケッと、喉を鳴らした。

「そんな状況がどれだけ続いていたと思っているんだ!
 クソったれ!
 良い加減、こっちの暮らしにも飽き飽きしてたところに、お気楽に現れやがって!
 しかも、ハネムーンだと?」

 そう言って、岩井は、盛大に眉を寄せた。

「ああ、確かに、ケアンズは、新婚旅行の定番の場所だからな。
 そんな偶然だってあるかもしれねぇ。
 今のオレが、組から言い渡された事業ってヤツは。
 日本人専門の請け負い誘拐斡旋業だ。
 こんな。
 クジラだの環境問題だので反日感情が目立つくせに。
 妙に強い親日感情を持っているヤツも居るような、不安定な場所では商売になる」

「……」

 強い、親日家、か。

 その、岩井の言葉に、ジョナサンの顔を思い出して、僕は唇を噛む。

 そんなコトを知らずか、岩井は、熱弁をふるい続けた。

「ケアンズに長期滞在する客のリストはある。
 来れば、昔の知り合いぐらい、探すのは、カンタンだ。
 しかも、お前には、色々世話になったから。
 もし来る時があったら、歓迎してやろうと。
 名前と特徴のリストは。
 無駄を承知でブラックリストのテストプロフィールに放り込んでたんだ。
 今回の仕事の依頼をして来た環境団体からは。
 例の晩餐会に出た日本人なら、誰を誘拐しても良いと言われてたし。
 どうせなら、お前の知り合いをさらった方が面白いだろ?
 ……だけども」

 言って、岩井は、莫迦にしたように笑った。

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