カウントダウン
「なにニヤニヤしてんの?」
「別にニヤニヤなんてしてないよ。祐介は優しいんだなって思っただけ」
「どこがだよ」
「色々ね、歩幅まで合わせてくれてるし」
「……彩音は本当に酷い扱いされてたんだ」
「そんな事ないよ。歩幅なら悠斗だって合わせてくれるもん」
見上げて慌てて伝えれば、祐介は大きなため息と哀れみの表情。
「別れる予定立てても、結局彩音は悠斗が中心の人生なんだ」
「……っ、そんなこと」
まったくその通り。結局、頭の中は悠斗ばっかり。
そのまましばらく無言で、時々道案内のために口を開く。気まずいながらも、もう家が見えた。
「本当にありがとう。到着です。祐介は帰り大丈夫?」
「ああ、心配すんな」
「そっか、じゃあおやすみなさい」
「なあ、明日さ……」
「うん?」
「明日、悠斗がもし弁当いらないって言ったら俺にくれ」
「え?なんで?」
「もったいねぇだろ。教室で待ってる。じゃあな」
それだけ言って、祐介は帰っていった。もう、振り向かない。私は見えなくなるまで目で追ってから家に入った。
「もったいないからって、物好きだな」
なんて呟いた私の顔がにやけているのが自分でも分かる。
たった一日なのに、目まぐるしい。ぼーっとする頭で寝る前までのいつも通りの行程を過ごして、ベッドへと入る。
悠斗へのおやすみメールは付き合ってから今まで欠かす事はなかったのに、今日初めて忘れていた。
その事に気付いたのは、朝起きてから携帯を見た時。
何かあったのか?なんて、悠斗からのメール。
普段はメールなんて自分の用事しか送らないのに。
何かあったワケじゃないのに、何故か焦る自分がいる。
バイト、疲れただけ。心配ありがとう。
なんて、絵文字をたくさんつけて送っても、返事なんてこない。
カウントは、別れるまであと58日。
相も変わらず私はキッチンに立つ。