【短篇】こ い い ろ 。
 



「び……っくりした」
「よ」

突然竹本君の顔が前にあって、わたしはびっくりして肉まんを落としそうになった。
何故だろう、今日のことがあったから自然に意識してしまう白いほかほかの皮からでる肉を見て、わたしはすぐに袋の中に肉まんを入れた。

「何、竹本君もコンビニ?」
「いや、俺は別に用ねえけど」
「……けど?」
「藍川がいるの、見えたから」

あ……へぇ〜、そうなんだ。
とは言えず、顔で気持ちを何とか伝えようとしたがそれが十分に届いているのかもわからないまま、私は「そっか。じゃあね」とそそくさと帰ろうとした。いや、こんなことしたら更に変だと思われるだろ。何やってんだ自分。

「じゃあ、明日な」
おお、案外普通じゃないか。よかったよかった。いや、ちょっとなんだか悲しいかもな……って何考えてるの、自分。

そのまま振り返らずに私は家への道をただひたすら歩いた。後ろに竹本君はいないのに、いるように思えて仕方ない。ぴたりと足を止めて、くるりと振り返ってみた。彼の姿はあるわけないのに、私はいつの間にか彼の姿を探していた。ただちょっと、別に意味もなく押し倒されただけでこんなに変わってしまう自分は愚か者だ。本当にあまり深く考えないようにしよう。



 
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