【短篇】こ い い ろ 。
ほっとして部屋着に着替え、下に下りるとお母さんと仕事が休みの筈のお父さんは既にいなかった。リビングには弟がソファに生意気に座っていて、ばりばりとポテトチップスを食べながら漫画らしき本を読んでいる。
「何読んでんの」
「あ?なんでもいいじゃん」
おいおいおい私は姉だぞ。
昔は「おねーちゃん」ってすっごい可愛かったのに、中学生になれば声も低くなって、生意気になっちゃって。
「気になるの、ちょっと見せて」
「あーうぜぇこっち寄るな」
「は?!あ、エロ本か」
「ちげーよ馬鹿、そんなんリビングで見ねぇし」
「じゃあ部屋で見るんだーふーん」
「うっせーなぁ!つか高校生のくせに休日フリーとかまじお前有り得ねぇ」
そう言って嘲笑う我が弟。おいおいさっきのエロ本のくだりの焦りはどこいった。
「は?あんたに関係ないじゃん。つかあんたこと男子中学生のくせにお出かけもなしですか」
「今日は部活休みなんだよ。帰宅部なのに引きこもって男のにおいがしない姉もどうかと思うが」
「なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ」
「うるせースウェットババア」
「あんただってスウェットじゃん!」
しかも同じ灰色だし!と言うと きもちわりぃーと言われ漫画らしき本を閉じた。ブックカバーがかかっていて何というタイトルの本か全くわからない。閉じた瞬間に取りあげ、中身を見る。
「おま、何すんだよ!」
返せよ!と何故か顔を赤らめる弟が妙に気持ち悪かった。ページをぱらりぱらりとめくれば文字ばかり。
「ええと、“アツコは言った、ケンジ……ずっと前から好きだったの”って、え?」
これ、恋愛小説ですよね?
そう言うと、弟は「まぁー、そうなんじゃね」と適当な返事を返された。