【短篇】こ い い ろ 。
 



「へぇーあんたこういうの読むんだ。つかこれ私のですよねあれあれ?」
「この前勝手に部屋入って盗った」
「ちょ、やめてよそういうの!貸してほしかったんなら言ってよね!」
道理で本棚に少し空きがあると思った。
「言えねーだろ、お前絶対笑うし」
「いや笑わないよ!わたしの弟も成長したんですねーおほほって思うだけ!」
「それが笑ってるっていうんだよある意味!あーうっぜぇ!」
「つかなんで突然恋愛小説なんて……」
「なんか流行ってんだよ、クラスで!」

中学校ではこんなの流行ってんだ。結構流行に敏感な奴なんだなぁこいつ。
ブックカバーを外すと、甘酸っぱいようなタイトルが顔を出した。
これすごく読んでたなぁ。確か、主人公のアツコはあまり喋ったことのないケンジと突然押し倒されちゃって、そこからアツコは今まで気づかなかったケンジに対する自分の想いに気づき始める……って、最後はハッピーエンドなお話。こんな恋愛してみたーいなんて、昔は思っていたけど今になってもそんな恋愛してない。いつできるのかもわからない。

いや、待てよ……これあったよね?昨日辺りに押し倒されたよね?あまり喋ったことのないケンジじゃなくて、竹本君に。だけど私にはアツコになる為に足りないことがある。……ケンジを想うこと。
惜しいなあ、それが好きな人だったらな。竹本君と竹本君ファンには失礼極まりないことを今言ったけど、本当の話だ。ごめんなさい。

その時、ずぼんのポケットに入れていた携帯が震えた。



 
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