【短篇】こ い い ろ 。
ベットに倒れ込んだと同時に今度はメール受信完了という文字が液晶に浮かぶ。知らないメールアドレス。多分竹本君。
開くと「藍川?」という3文字。竹本君だ。
「そうです」と返事をすると、その何秒後かにまた携帯が鳴った。意外とメールの返事が早い。
[さっきはごめん。]
[別に謝る必要ないよ。それよりどうしたの?]
[ああ、別にたいした事じゃないけどさ……]
[うん、いいよ。]
[昨日の放課後のことで]
ドクリ、と心臓が跳ねた。
昨日の放課後なんか心当たりがありすぎる。というより一つしか見つからない。押し倒されたことだ。
やはり会わなくてよかった。メールでは平然を装える。
だからメールは便利だ。文字って素晴らしい!
[ああ、あれかぁ。わたしは気にしてないからいいよ]
[いや、そうじゃなくて]
[え?]
[俺が、気にしてて]
よく、意味がわからなかった。
返信をしないまま、もう何分も経っている。何を書いていいかわからなかった。こんなんじゃ動揺していることなんか丸分かりだ。数十秒で返していた返事も途絶え、きっと竹本君は変に思っているのだろう。仰向けになって文字を打っていたから手が疲れた。ぱたりと手をおでこに置けば、鳴らないと思っていた携帯が鳴った。