カモミール・ロマンス
二人で並んで歩く。
時間が止まっているかの様な感覚。
横顔を見つめていると、それに気付いた沙織が、照れた様に微笑んだ。
「あ、えっと……良い天気だね?」
「ユキくん、今日くもり」
緊張して会話も上手くできない。
自分が不甲斐なくて、格好悪くて、ちょっぴり嫌になってしまう。
「あ、そうだ。
これ友達から借りてさ、予習してきたんだ」
そう言って勇気はカバンから岡本次郎の作品集を取り出す。
それを手に取る沙織。
「岡本次郎……?
ユキくん、今日見に行くのは佐竹よしえさんていう人の、現代アートの展覧会だよ」
「へっ……?
岡本次郎じゃないの?」
「違うよー。
岡本次郎って、あはは。
ユキくん面白ぉい」
沙織はお腹に手を当てながら笑った。
はじめてみる沙織の年相応の笑い方。
ただそれが嬉しくて幸せで。
そんな気分だからなのか、直也が岡本次郎の作品集を渡したのもワザとで、
こうして緊張をほぐしてくれようとしたんじゃないか、とさえ思える。
「あ、そだ。
前に行った時のパンフレットあるよ。はい」
沙織は可愛らしい手提げから長方形の四つ折りパンフレットを出し、勇気に手渡した。
勇気はパンフレットを開く。