カモミール・ロマンス


駅のむかい側のデパートを横切って、小さなクレープ屋さんのある角を曲がった通りに美術館がある。

8階建てのビルの3階から4階が美術フロアだ。

「早めに来たから空いてるね。ラッキーだよ」

「なんかドキドキしてきたオレ」

エレベーターがゆっくりと上がっていく。

これから目の前に広がる風景への期待と、それを見た自分が何を感じるのかという、不安にも似た感覚が勇気の中にあった。


電子レンジの様な音が鳴って、エレベーターの扉が開かれていく。

真っ白な空間に勇気は拍子抜けしたような顔をした。

「開場少し前だけど受付はもうやってるね。

行こうユキくん」

「……あ、うん」

心なしか沙織の歩調が軽快だ。

勇気はゆっくりそれについていく。

大きいガラスからビルが見える。

観葉植物が所々にあって、その緑とインテリアの茶色が見事に白い空間に栄えていた。
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