カモミール・ロマンス

不思議の世界に迷い込んだ子どもの様に、左右にキョロキョロと首をふる。

その一つ一つから受ける濃いインスピレーションは、勇気の思考を心地よく止める。

そんな勇気を見て微笑む沙織。

足早に奥へと進んでいく勇気に、ようやく沙織が追い付いたのは突き当たりに飾られた一際大きな銀河の絵に勇気が釘付けにされた時だった。

「さっき話してた作品だね」

3色の世界。

壁の白は光だろうか?それとも無だろうか?

縦に大人1人、横は二人分はあるだろうか、そんな大きな絵画は幻想的な宇宙を表している。

「私ね。佐竹よしえさんの作品を見る度にいつも思うんだ。

佐竹さんはいったい何を考えながら筆を走らせているんだろうって」

作品に込める作者の思い、メッセージ。

時に言葉よりも多くメッセージを伝えてくれる、アートの魅力であり魔力とも取れる部分。

「オレはさっきパンフレットで見ていて、ちょっと悲しさみたいなのを感じた。

でも、こうして本物を見て分かった。

オレが感じたのは……」

沙織はその勇気の言葉を忘れられない。

一枚の絵画を見つめる少年の瞳に宿っていたのは、紛れもなく――

「作者の悲しさじゃなかったんだ。

この作品から感じる強さに、オレ自身が悲しくなってしまったんだ」


彼の言う「強さ」だったから。





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