執事と共にバレンタインを。
「はい」


恵理夜は水を差し出した。

春樹は口を押えたまま礼を言う余裕すらない様子で、その水を一気にあおった。

普段、冷静な春樹のこの変化はあまりにも珍しくて面白かった。


「ワサビ、ですか」


絶え絶えになった息でかろうじてそう口にした。


「ひどい目にあったんだもの。これくらいは許されるでしょう」


なるほど、それで全部食べるように念を押したのか――と春樹は合点した。
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