君に嘘を捧げよう
そう言って俺はアヤネの家を飛び出した。
「待ってタクト!」
アヤネが止めたけど、もう止まれない。
俺はもうアヤネといる資格なんかないんだ…。
そう思えば最近、俺が偽者だったことを忘れて、少し浮かれてた。
現実は、そんなに甘くないってことを忘れてたんだ。
「…アヤネ」
最後にもう一度、愛しい人の名前をつぶやいた。
そして心の中で、サヨナラをした。
アヤネに俺はもういらない。
本物の『タクト』が帰ってきたんだ。
寂しい、なんてことはないと思う。
本当に好きな人、偽者なんかじゃない人が、帰ってきたんだから…。
アヤネが幸せなら、俺はもう嘘をつく必要はない…。
そう割り切ったはずなのに、苦しいのは何故だろう。