雪割草
「いやいや、遅れてすまんね」

 イタジイは自分の持ってきたスルメイカを差し出した。

 イタジイは一番最初にこの公園に住み始めた人で、年齢は七十歳近くになる位であろう。

なんでも親父さんは元日本陸軍のお偉いさんだったらしい……。

ともかく、此処では誰もが他人を詮索しない。
皆色々と事情を抱えながら、都会の片隅で生きているのだ。
体が弱く普通に働けない者、体に障害があり会社をクビになった者。

シローや美枝子もそんな中の一人だった。

 酒盛りが始まって数時間が経ち、人数も十二・三人に膨れ上がった頃、おかみさんから貰った焼酎も底を尽きはじめていた。

メラメラと燃え盛る焚き火の炎を見ながら、シローは美枝子と出会った頃を思い出していた……。

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