雪割草
 公園に戻った香奈は、すぐにシローに薬を飲ませた。

酷くうなされ続けた様子で、体は熱を帯びたままダラリと力を失っている。

 その後、二・三分は過ぎただろうか。

さっきの男も香奈を追いかけて、公衆トイレの中にやってきた。

彼はシローの様子に気付くと、手に持っていたジャンパーを掛けながら、

「大丈夫ですか?」

 と声をかけた。

次に廻りを見渡し、香奈の方を向くと、

「これで、タオルを買って来て下さい」

 財布ごと手渡した。

……それから、一晩中二人はシローを看病した。

高熱にうなされる、額のタオルを交換し続けた。

眠ることさえも忘れて、延々と繰り返された。


やがて……。

長い夜の峠が過ぎ去り、晴れ晴れとした初冬の朝を迎えていた。

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