雪割草
 雅代は呆れ顔を浮かべ、溜め息をついた。

武雄の方は、先程からずっと表情を変える事もなく、ぬるくなったお茶を最後の一滴まで飲み干すと、立て膝をついて立ち上がり、

「志郎。

福島は寒いだろう……。

風呂にでも入れ」

 ひとこと声をかけ、牛舎の方へ出て行ってしまった。

玄関の扉を開閉する、建て付けの悪い軋む音が部屋中に響いた。

武雄が居なくなってからも、シローはその場に頭を垂れて泣き続けていた。

今まで背負い込んできた、すべての膿みを吐き出すかのように……。

窓ガラスの隙間からは、冷たい風邪が入り込んでくる。

やがて雅代も席を立ち、取り残されたシローを孤独が包み込んでいった……。

誰かに請う訳でもなく、涙は流れ落ちた。

 人と人とのわだかまりなど消える筈もないだろう。

しかし、血の繋がりというものは、一生消えぬ赤い糸のようなものだと想わせるような……。

そんな夜だった。


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