雪割草
第十八章~旅立ち
 明くる日、シローは隅田川の河川敷に停めて置いたリヤカーの荷台にビニールシートを被せ、荷崩れしないようにロープで全体を縛りながら、出発の準備をしていた。

昨日燃やした枯れ枝は細い煙りを登らせて、うずね火となり消えていた。

゛大丈夫か?美枝子……。痛くはないか?゛

 心の中で呟きながら準備をしていると、

「やっぱり行くのか?シローさん」

 ニシヤンが背中越しに声をかけてきた。

「あぁ……。」

 微笑みながら応えた。

「福島までなんて、三百キロ以上はあるだろう?

歩いて行くのだって大変なのに……。

本当に大丈夫なのか?」

 ニシヤンの心配してくれる気持ちは嬉しかった。

しかし、もう決めた事だ。

美枝子が本当にそれを望んでいるかは分からなかったけれど、自分に出来る証しはこれしかないと信じた。

 眺める東京の空は、今までになく広かった。

あの雲の下には安達太良山が在り、美枝子の故郷の丘がある筈だ。

シローはリヤカーのハンドルを握ろうとしていた。

「おーい、シローさん!待ってくれ!」

 見上げた橋の上から、チュンサンが手を振りながら走って来るのが見えた。

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