雪割草
 随分と走って来たらしく、

「ハア、ハア」

 二人に近付くと、肩にもたれかかるようにして、息を整えた。

「どうした?チュンサン」

 シローが彼の顔を覗き込んだ。

「うん、ちょっとこれを買いに行ってた」

 上着のポケットから安い煙草を取り出し、ニヤけていた。

「別れの挨拶に煙草でも吸おうよ」

 煙草の封を切り、白いフィルターを抜き取った。

仄かに葉っぱの香りが広がった。

それぞれに煙草をくわえ、チュンサンがシューッとマッチを擦る音を鳴らすと、三人は一緒に手を添え火を着けた。

「ゴホッ、ゴホッ」

 チュンサンが口を手で抑え、噎せ返った。

つられて他の二人も噎せてしまった。

皆、煙草を吸うのは久しぶりだった。

 中学生の頃、初めて仲間と煙草を吸った時の、古い記憶が浮かんだ。

何故、チュンサンが急いで煙草を買って来たのかが、悟れた気がした。

そこにあるものは、また違った意味の証しだと思う。

 シロー達は暫く無言だった。

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