僕の見つめる世界で。
「遅くなったな、小野」
ふう、と小さなため息を吐きながら額にじんわりと滲む汗を拭きとる。
「今のは、小森さんですか?」
きっとそうだと思っていた。
声が大きく、勢いがあって、
教師までも振り回す。
「そうだよ。まったく…」
そう呟きながらファイルに
目を通し、僕の進路指導を始めた。
小森友利〈コモリ ユリ〉
明るくてクラスの中心的人物で、そこまで綺麗でも可愛くもないのに何か魅力があった。
ふわふわしていて僕ら男は
とても手に届くことの出来ない存在だった。
そんな彼女が大学にも行かず
芸能界に…
ますます手の届かない所に
行ってしまう気がした。