澤木さんのこと。
「あたし、もう行くから。テーブルの上にお金。置いておくから。自由に使いな」
「はい」
「次はいつか帰って来るかわかんないけど。あたしの要る時間に帰ってくるのとかマジやめてよね」
「はい」
「ったく。だからあんたなんか生まなきゃよかったのよ」
平然とそう言い捨てると派手なワンピースを着てさっさと家を出て行ってしまった。
バタンと閉じたドアに向かって
「いってらっしゃい、お母さん」
呟くように見送る。
もう何年も、言い出せずにいる、“お母さん”の言葉。
言ったらきっともっと怒られる。
そう思って言わないようにしてたのに。
状況は何も変わらなかった。
ううん、それだけじゃない。
もっと悪くなったかもしれない。