Water World Wars ～軍人と少女の恋物語 【序】

　排ガスの出ない反重力装置を内蔵して動いているエアカーは、この海王星においては基本的な移動手段の一つ。

　必要なのは反重力装置を起動するための電力で、１回の電力供給で数百キロは走行できる設計になっている。

　安全性は高いが、一応、運転するためには所定の講座と試験をパスした18歳以上の者のみ、という制限は付いている。

　エアカーのデザインは様々なタイプがあるが、大昔から地球で走っていた車の形をモデルにしているものがここでも人気であり主流だ。

　軽自動車タイプ、スポーツカータイプ、乗用車タイプ――

　このエアカーは所有する人物の好みにより、西暦19世紀後半頃のクラシックカータイプになっていた。

　エアカーは公道をすべるように走りながら、居住区の郊外に位置する巨大な造りの門前にやってくる。

　すぐ近くにまでやってくると、警備システムがエアカーを察知し、自動で重厚な門扉の腕を広げ、主を迎え入れた。

　エアカーが敷地の中へと入ると、再び門扉はそっと腕を閉ざす。

　中に入ってしばらくまっすぐな道を走ってから、ようやくエントランスと思しき場所へと到着した。

　一見すると中世西洋の宮殿のようにも見える屋敷は、美しく手入れが行き届いており、そこに住む人物の身分の高さが伺える。

　ゆっくりとエアカーがエントランスの前に停止し、それを待ってエントランス前に侍していた初老の男性が、無駄のないしなやかな動きで後部座席のドアを開いた。