◆少年革命進化論◆
そしてその日を境に、御李は部活の前になると、俺をクラスまで呼びに来るようになった。

彼はさぼり癖があったので、なかなか呼びに来ない時は俺が呼びに行った。

恐らく1軍の中で、平気で部活をさぼろうとするのは、御李くらいだろう。
(レギュラー争いとかがあるから、普通はさぼろうと思わないのだ。)


俺は、1年で2軍に入れたのは俺一人だと聞いていたので、
その時は自分が1年で一番上手なんだと思っていたけれど、
それは「2軍に入れた」のが俺一人だっただけで、
それ以上に、前代未聞の「いきなり1軍に入れた」1年が一人いたのだ。

それが琢磨御李だったのである。

最初は疑い半分だったのだが、
(御李が、実はダブりの先輩なんじゃないかと疑ったりもした。あまりにも俺がしつこいので、御李は翌日、保険証を学校に持ってきたほどだ。)
実際に彼がプレーする姿を見たら、異例の1軍抜粋も納得できた。

彼には、センスがあった。

普通の人が、どれだけ努力しようが練習しようが、手に入れることのできない、
生まれながらのセンスの良さを、御李は持っていたのだ。

野球は、勉強が全く出来ない御李の、唯一の取り柄と言ってもよかった。
これでさぼり癖さえなくなれば、野球部としては万々歳なのだろう。
しかしそこがなかなか直らないのが、また御李らしくもあった。




「・・・んー。」

と、そんなことを考えていたら、不意に隣から小さな声が聞こえた。
どうやら御李がようやく目を覚ましたらしい。
彼を見ると、髪がぼさぼさになっていてそれが面白かった。

「御李、おはよう。」
「お、はよ。何、スズいつ来たの。」
「10分前。」
「は、起こせよ。」

俺は、起こしたけど起きなかったんだろ。と言いながら、買ってきた昼食を御李に渡す。
ありがとー。と喜ぶ彼は、そのサンドイッチが辛子入りであることをまだ知らなかった。
(御李は、わさびとか辛子とかが駄目なのだ。俺はそれを知っていて、わざとそれを買うのが好きだった。ここらへんが性格が悪いと言われる所以なのだろうか。)





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