宿題するから利用して

登校時間のピークは廊下に生徒がごった返すので、存在を消したい心境にはぴったりだ。

茹だる暑さを透かせば、最近少し高くなった空にはモッツァレラチーズの輪郭が熱で溶けたような薄い雲が浮かんでいる。


つっつんはつまんないと散った二人娘を煩わしく感じつつ、

俺はE組から逃げようと人の波に逆らうべく一歩踏み出そうとした。


田上結衣が好きだ。
付き合えるならなんだってするのに。百万円だって払う。

どうして妄想みたいに、とんとん拍子にうまくいかないのか。


「あー、良かった、おーつか。おはよ」

逃亡する為に持ち上げた右足を床につけるより先に、胃の辺りに響く色気ある声がかかったので、

俺は再びその場に留まることになってしまった。

< 14 / 229 >

この作品をシェア

pagetop