宿題するから利用して
登校時間のピークは廊下に生徒がごった返すので、存在を消したい心境にはぴったりだ。
茹だる暑さを透かせば、最近少し高くなった空にはモッツァレラチーズの輪郭が熱で溶けたような薄い雲が浮かんでいる。
つっつんはつまんないと散った二人娘を煩わしく感じつつ、
俺はE組から逃げようと人の波に逆らうべく一歩踏み出そうとした。
田上結衣が好きだ。
付き合えるならなんだってするのに。百万円だって払う。
どうして妄想みたいに、とんとん拍子にうまくいかないのか。
「あー、良かった、おーつか。おはよ」
逃亡する為に持ち上げた右足を床につけるより先に、胃の辺りに響く色気ある声がかかったので、
俺は再びその場に留まることになってしまった。