五里霧中



部屋の中には見たこともない怖い道具がいっぱいあった。


だけどそれよりもっと怖いのは、視界いっぱいに広がるおじさんの笑顔。


初めて見た笑顔はナメクジがまとわりつくような執拗なもので、笑顔=恐怖という間違った方程式がアタシの中で構築されていく。



おじさんの脂ぎった掌がアタシの服を引き剥がす。


慌てておじさんを蹴ったりしたけど、すぐに抑え込まれてしまった。


怖くて怖くて涙が溢れる。


これが恐怖なんだってことを初めて知った。


おじさんは無造作に自分の服を脱ぎ捨て、アタシに覆いかぶさる。


暴れてみてもダメ。


見たことも聞いたこともないのに『死』というものが脳裏をよぎった。


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