五里霧中



「まって、まって」


「僕はここにいるよ」


「クロを置いていかないで……クロを……アタシを、捨てないで」


どこを見ているのかわからない、焦点の定まっていない目がぐるぐると回る。


クロは縋りつくように僕にしがみつき、噛みつく勢いで捲し立てた。


「いやだいやだいやだ!アタシは失敗作なんかじゃない!アタシは、アタシは……!」


慌てて空気を取り込んだせいでクロがむせる。


僕は優しくクロの背中をさすり、その小さな体を抱き寄せた。



あの日のように、優しく優しく……



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