五里霧中
その小さな黒猫はいつまでも人間を威嚇していた。
自分だけが人害だと思い込んで、殻に閉じこもっていたんだ。
だから僕は本という名の免罪符をあげた。
『これで言葉を覚えな。最初のうちは僕も一緒に読んであげるから』
それでも黒猫は毎日なにかに怯えていた。
捨てないで、捨てないで。
少女のそんな寝言が聞こえてくるたび、僕の心臓は静かに締めあげられていく。
違う、違うよクロ。君は失敗作なんかじゃない。
だけど僕の言葉は届かない。
だって全てが嘘だから。