五里霧中



「……どうしたの?」


無機質な兄の声で我に返る。


「……あ、えっと……」


言い淀む私を見て何かを読みとったらしく、男はわざとらしい笑みを浮かべた。


「さっきの君の質問に真剣に答えよう。そのかわり、二人はちゃんと僕のいう通りにしてほしい」


腰をかがめ、私たちに視線を合わせて微笑む。


私は素直に頷き、兄は不機嫌そうにそっぽを向いた。


「なんでこんなことをしてるのか、だったっけ?」


「……そう」


舞台の上に立つ道化の如く、男は演技めいた口調で言った。



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