五里霧中



「僕も虐待されてたからさ」




男の言葉が耳に突き刺さる。


隣の兄を見ると、彼も少なからず動揺しているようだった。


「……虐待……?」


「うん。君らと一緒だね」


とても重大な事実のはずなのに、男はやはり飄々としてどこにも悲観した様子はない。


しばらく何も言うことができなかった。


ようやく言葉の意味を咀嚼し終えた頃、兄が重い口を開いた。



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