五里霧中



スゥッという息を吸う小さな音が響き渡る。


「……あんたは、逃げたのか?」


それは『逃げたのか?』というよりも『逃げられたのか?』というような響きを孕んでいた。


息苦しい沈黙が続く。


男は思案している様子だったが、しばらくしてふーっと深く息を吐いた。



「殺した」


これも君らと一緒だ。


続けて男は、消え入りそうな声でそう呟いた。



それほど驚いていない心を、我ながらおぞましいと感じる。


でも、なんとなく頷けた。


きっとこの人もそうするしかなかったんだろう、と……



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