王子様はルームメート~イケメン彼氏とドキドキ寮生活~

「……別のことを考えれば、きっと紛れるわ」

 思考を巡らせようとうつむいた綾菜の頬に、アッシュベージュにしたばかりの髪がかかった。

 コテで動きをつけたつもりが、あまりうまくいかず、少し重い。

 楽だと思って変えたショートボブも意外に手がかかる。

「あっ、うまくいきそう」

 このまま、髪のことに意識を向けてやりすごせるかもしれない。

 綾菜の試みはうまくいくかに思われた。

「どうした? 大丈夫なのか?」

 綾菜の心情を全く知らない目の前の男は、本格的に心配になったようだ。

 肩に手をかけ、顔を覗きこんでくる。

「さ、触られた……」

 血が一気に下に落ちていく。

 目の前が真っ暗になり、全身が浮遊感に包まれる。

「もう、無理……。限界」

 いいひとなのに、ごめんなさい。

「おい、オマエっ。おいっ」

 心の中で何度も謝りながら、綾菜は意識を手放していった。

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