Fahrenheit -華氏-
―――その夜は…
ドキドキし過ぎて眠れなかった。
と言うものの、目を瞑っても柏木さんの姿が浮かんで、俺の脳内はアドレナリンが大放出。
徹マン(徹夜で夜通し麻雀)のときには考えられない状況だぜ。
ごろごろと寝返りを打ち、枕元のサイドテーブルに置いたデジタル時計が4時半を差したとき、俺はとうとう眠るのを諦めた。
メガネをかけ(あ、ちなみに普段はコンタクトね)書斎に向かう。
仕事でもすっか……
そう思いながらパソコンの電源を入れたら最後。
俺の脳内は眠たくなるどころか、さらに神経が冴え渡ってしまった。
―――
と、言うわけで一睡もできず。
俺はいつもより早く会社に来た。
椅子に落ち着いて、昨夜のおにぎりにした炊き込みごはんを取り出した。
普段は朝飯は食わないけど、さすがに一晩中起きてりゃ腹も減る。
おにぎりにガブリと一口噛み付くと、
「おはようございます。朝ごはんですか?」
と柏木さんの声がして、俺はそのまま止まった。
白いセットアップスーツ。深く開いた襟元から光沢のあるグレーのカットソーがちらりと見える。
髪はきれいに纏め上げられていて、夜会巻きにしてあった。
どっからどう見ても…
デキる女だ。
いや、格好だけじゃなくいつも出来る女なんだけどね。