孤高の天使
「あの子には少し夜の空を愉しんでもらっているわ」
腕を組んでラファエルの周りをゆっくりと歩くアメリア。
“夜の空”と言う言葉にアメジストの瞳が険しくなる。
「イヴをどうする気だ…」
自然と低くなる声にアメリアが更に愉しそうに笑い、ツー…と長い爪でラファエルの体をなぞる。
フワっと二枚羽で宙に浮き、自分より背の高いラファエルの背中に抱き着くアメリア。
「ルシファー様が悪いんですのよ。私を選んでくださらないから」
後ろからラファエルの首に腕を絡め、耳元で赤い唇が妖艶に囁く。
その声に不快感を抱いたのか、ラファエルは眉を寄せた。
「俺には端から選択肢などない」
苛立ちを抑えながらもアメリアを引き離そうとはしないラファエル。
もしかして……
拒絶しないのは私のため?
私が捉えられているから?
ふと浮かんだ考えに悲しくなる。
自分の力ではどうにもならない状況がもどかしい。
ラファエル様の枷になっていることがとても情けなかった。
「そうですか。けれど、そう言っていられるのも今のうちですわ」
そっけなくそう言ったアメリアは笑みを崩してラファエルから離れていく。
そして、ゆっくりとラファエルの前に来たかと思えば手を前にかざし、円盤を出現させる。
それは私の目の前にあるものと同じだった。
円盤の表面が揺れ…―――
「ッ……!」
十字架にはりつけられた私を見てアメジストの瞳が大きく見開かれる。
そこには今度こそ紛れもない私が映っていた。