孤高の天使
「いや…ッ……きゃぁぁ」
叫び声なんて最初だけ。
体の縛りが消えて闇に放り出されてからはもう息をつく暇もなくて。
轟々と吹き付ける風と体の芯から力が抜けていくような落下の感覚に気を失いかけそうだった。
だけど、私と同じく闇の滝へ堕ちていくものを視界の端に捉え、心臓がドクンと嫌な音を立てた。
フェンリル……
視線の先には小さい姿のままのフェンリル。
目を覚ます以前に、魔力を吸い取られたため元の姿に戻ることができないフェンリルは重力に抵抗することなく堕ちていく。
フェンリルは助ける…
闇がぐんぐん近づく中、私は咄嗟に手を伸ばした。
フェンリルを巻き込んだのは私であって、フェンリルは何の罪もない。
絶対に助ける……
少し先を堕ちていくフェンリルに限界まで手を伸ばす。
あと…もう少し……
「フェンリル!」
風が轟々と鳴る中であらん限りの声で叫ぶ。
するとフェンリルがピクリと反応した。
「フェンリルッ!」
懇願を込めた叫びが通じたのか、フェンリルはギュッと目を瞑った後、ゆっくりと目を開いた。
しかし、弱ったフェンリルの動きは緩慢で、目を開けていることで精いっぱいのようだった。
「お願い!私の手を取って!」
声が裏返るくらい大きな声で叫んだ。
すると、暗闇の中で紅の瞳が見開かれたと思えば、ゆっくりと前足が上げられる。