孤高の天使
穏やかな時間が流れる。
その時だった―――――
ザァッと生暖かい風が吹き、今まで澄んだ青が広がっていた空が曇る。
「なんだ」
今まで穏やかだったルーカスの顔は一瞬にして鋭い顔つきに変わる。
灰色の空模様もよどんだ空気も、人間界のそれとは全く異なるもの。
「どうしたの?」
不穏な空気を感じながら、不安を口にする。
「分からない…けど、あまり良い状況ではないことは確かだ」
ピリッとした空気をルーカスから感じ、ゴクリと唾を飲み込む。
「ここから離れるぞ、イヴ」
空を見上げたままのルーカスが告げた言葉にコクンと頷く。
ルーカスの二枚羽が広げられたと同時に、霧のように漂う闇の粒子が私の周りを囲む。
風に乗って流れてきたそれは腕の様な形となり、一瞬にして攫われた。
「きゃッ……ルーカス!」
横抱きされていただけの私の体は宙に浮き、体を黒い靄に覆われる。
「イヴ!」
焦ったような声を上げながら私を追いかけてくるルーカス。
しかし、差し伸べた手は触れることがなかった。
『この時を待ちわびていました』
ブワッ…―――――
ほくそ笑むような不気味な声とともにルーカスの足元に闇が広がる。
円になって広がった闇は足元から弦のように伸びあがり、ルーカスを囲む檻となった。