孤高の天使
自分でも止めなければならないと思っているのか、込み上げる負の感情を抑え込むかのようにギリッと奥歯を噛みしめるラファエル。
肩から流れる血など気にも留めていない。
ラファエルの肩の傷が決して浅いものではないこと、そして魔力が尽きる寸前だということは見れば分かる。
「そこで指をくわえてちゃんと見ていて下さい。私自らの手で貴方の愛するイヴを殺して差し上げましょう」
底冷えするようなグレーの瞳に本気で私を滅する意思が見えた。
まるで今までは子供の遊びであったかと言わしめんような変わり様にゾクリと体が震える。
しかし、同時にこれが最後のチャンスだと自分を奮い立たせようとする想いも湧き上がった。
動くなら今しかない――――
短い間の、しかも一方的に伝えた小さな作戦。
ラナはちゃんと理解してくれただろうか。
ちゃんとうまくいくだろうか。
そんな不安が胸を渦巻くが、うだうだ考えている暇などない。
『ラナ!』
ラファエルに向けた剣の切っ先をそのままに限界まで引くのをスローモーションで見ながら心の中で叫ぶ。
ラナは私の背で初めて声を出して「行くわよ」と小さく応えた。
久しぶりに聞いたラナの声は力強く、けれどどこか緊張しているようにも聞こえる。
この状況で緊張しないわけがないし、私もラナの声を聞くまでは胸が張り裂けそうなほど心臓が脈を打っていた。